日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.9

 Vol.9 Theme : 「LAから幕張へ、伝説から人間へ

 

 様々なアーティストがジャム・セッションする毎年恒例のイベントJAPAN JAMに今年もお邪魔させていただき、TOTALFATと共に「今の目線でのPUNKアンセム」をテーマにセッションさせていただきました。

 今回は幕張のビーチでの開催だったので「海=L.A.?」的に強引な解釈で、カリフォルニアが産んだPUNKレジェンドにしてアメリカンPUNKの伝説、そしてSKA PUNKの元祖でもあるオペレーション・アイヴィー『サウンド・システム』のカヴァーを披露。

 もはや音楽好きなら知らない人はいないであろうSKA PUNK……現在も続いているノー・ダウトマイティ・マイティ・ボストーンズなどを筆頭に世界的に愛され続けているジャンルですが、マイティ・マイティと共に「SKA PUNKの始祖」と言われているのがオペレーション・アイヴィー。1987年の結成から1989年の解散まで、なんとたった3年足らずの活動でアルバムも1枚しか出していないにもかかわらず、いまだに世界中のPUNXに影響を与え続けています。

 現在はランシドとして活動しているティムとマットが在籍していたのも大きいのですが、何よりもその生き急いだかのような性急で荒削りなサウンドが彼らの魅力です……裏打ちのリズムが特徴的なSKAは、通常ゆったり目な曲が多いのですが、オペレーション・アイヴィーはとにかく速いナンバーが目白押し。チョッ速な2ビートPUNKの合間に、SKAナンバーが挟まれる構成の唯一のアルバム『Operation Ivy』は、合間にレゲエを挟んでいたPUNKバンド、ザ・クラッシュのBPMをそのまま押し上げたかのような、荒削りなのにスタイリッシュな雰囲気で、当時のL.A.でも多くのキッズを虜にしました……今の耳で聴いても、そのラフさとクールさの共存は不思議なケミストリーを感じさせ、逆に今の機材では再現出来ないエネルギーに満ち溢れた楽曲達は、ランシドとも違うPUNK感がみなぎった大傑作です。

 荒削りなのはサウンドだけでなくパフォーマンスもまた然りで、カリフォルニアのローカルPUNXに過ぎなかった彼らのライブには、常に人が溢れ暴動状態……そのシーンの中にはグリーン・デイのメンバー達も混じって大暴れしていたり(ビリー・ジョーはランシドのメンバーに誘われていたそうです)、今では名門ライブハウスとなったギルマン・ストリートの名前を一気に有名にしたりもしました。「スカンキン」といった現代に通じるSKAダンスのスタイルもこの頃に形成され、飛び跳ねまくるメンバーと共に、客席もモッシュ&スカンキン状態で、まさに足の踏み場もないような激アツなライブが毎夜開催されていたようです。

 しかしそれは結果的にメンバーを疲弊させます……ローカルPUNXならではの目線で、巨大メディアを疑いながら社会的な正義や真実を訴える歌詞をがむしゃらに叫び続けていたのに、人気が出てしまうと不当にスター扱いされたり、自分たちが逆に大きく影響力のあるメディアのように扱われ始めてしまうことへの違和感が生まれます……いつの時代にも付き物な、ユース・カルチャーの終焉です。潔くバンドを解散させた後、前述の通りティムとマットはランシドを結成。ドラムのデイヴはシュロングというプログレッシブなPUNKバンドを結成し、来日もします(当時俺が働いていたCR JAPANが招聘しました)。

 そしてVo.ジェスは心を病んで半ば隠居状態が続いていましたが……自分がビート・クルセイダーズとして西海岸ツアーに出た2001年、偶然にもジェスに会う機会に恵まれ、直接話を聞くことができました! その頃にはグリーンデイのビリー・ジョーらの協力を得ながら、よりレゲエを中心としたコモン・ライダーというバンドで活動を再開し始めたところで、心身ともに健康を取り戻し始めていました。現在もクラシック・オブ・ラブ名義で元気に活動しており、一昨年にはランシドのティムとコラボ音源を発表したりもしています。

 伝説のバンドと言われたオペレーション・アイヴィーの生の声に触れ、その栄光と挫折のストーリーに胸を焦がしながらも、やはり今でも変わらぬ音楽愛を貫く姿には本当に心を揺さぶられます……この機会に是非、膨大な彼らの活動を追ってみてはいかがでしょうか。

 
 
Operation Ivy
『Operation Ivy』

 


 
 
【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。